王国を築く。
ひとり暮らしをしている。
実家との折り合いが悪く、20歳で専門学校を卒業後、21歳の時に家をでた。
当時はパートナーがいたため一緒に住んでいたが、約1年前にその相手との関係も終止符を打ち今はかなり自由気ままに生活している。
暮らしているのは駅からは遠いが、閑静な住宅街の中にあるメゾネットタイプの家だ。
外から見ると平家のアパートだが、中に入ると1階と2階に分かれており、1階にはキッチンや水場、2階には小さいがバルコニーもついている。
実家には姉が2人いたため1人部屋などなく、家具も親が選んだものしか使えなかった。
真ん中の姉と同じ部屋で与えられる空間は3畳ほど。唯一気に入っていた上にベットが付随しているタイプの広い机は、絵を描く私にとって天国で、時間を忘れて手を真っ黒にしながら創作に励んでいた。
が、それも19歳の時処分されてしまう。
まあ実家というのは両親の持ち物であり、自分の意見が通らないのは当たり前かと早々に諦めいつか自分の為だけの空間を作り上げる事を夢に見ていた。
両親には今は感謝の意しかない。衣食住を保証し、学びたい事を学ばせてくれた。
だが思春期だった当時、閉塞された空間で与えられるものには不満ばかりが募っていたのである。適度な距離を持てたこれから少しずつ恩返しをしていきたい。
実家を出た際もひとりでなかったので、全てを自分色に染める事はできず歯痒い思いをしながらも、お金に余裕がある訳でもなく怠惰に日々を過ごしていた。
そこからついにひとり暮らしをするという人生最大のイベントが起こる訳である。
様々な手続きや、家具選び、壁に飾る装飾や観葉植物。自分にとってはまさに血湧き肉躍る日々だった。
そして現在。私は、私の為だけに作った空間でふんぞりかえり日々を過ごしている。
5年前の私にこの話をしたら驚くだろう。
お金も時間も体力も必要だったが実現させるということは存外簡単にできるのだ。
空間は整った。
とぼんやり考えながら、ビールを片手に生のハーブ入りのソーセージを燻製して、少し煙臭くなったカーテンにファブリーズを吹きかけながら細く微笑む。
これからは少しずつ中身を整えていこう。
自分らしく生きるとはなにか。
ひとまず、この王国の主人は私だ。